個人的評価 | |
クリア状況 | |
プレイ時間 | 1.5時間 |
発売日 | 2025年2月7日 |
対応機種 | Steam |
プレイ機種 | Steam |
開発元 | DoubleBee |
発売元 | rokaplay Bou·tique, Drillhounds |
個人的ジャンル | ダウナー系作業ゲーム |
ゲームの特徴
『A Game About Digging A Hole』は、その名の通り“庭を掘るだけ”のゲーム。
セリフやBGMは一切なく、あるのはシャベルと静寂、そして掘削音のみ。
拾った資源は作業小屋で売却し、シャベルやバッテリーなどを強化していく。掘れば掘るほど深くなり、探索と効率化のバランスが問われる構造です。
どこをどう掘るか、ライトや足場をどう使うかはすべてプレイヤー次第。
“ただ掘る”という行為に、思いのほか自由と中毒性が詰まった、静けさが魅力のゲームです。
おすすめポイント | こんな人は苦手かも。。 |
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目次
語られぬ物語、掘るほどに深まる謎
無言のスタート、説明なき目的地
誰かが話しかけてくるわけでもなく、物語が語られることもない。プレイヤーはただ、「お宝が埋まっているらしい物件を購入した」という状況からスタートする。
そこそこ綺麗な庭と、1つの作業小屋。画面に表示されるのはシャベルのアイコンと、エネルギーの数値だけ。無言のまま、プレイヤーはシャベルを手にして掘り始めることになる。
それが、このゲームにおける“導入”だ。
そして、その瞬間からすでに世界観が始まっている。


掘るだけの庭、語られない正解
ゲーム内でプレイヤーが触れられるのは「庭」と「作業小屋」だけ。小屋は装備のアップグレードや売買の場として機能するが、それ以外はただ、ひたすらに庭を掘るのみ。
何のために掘るのか?
なぜそこに宝があるとわかっているのか?
掘った先には何があるのか?
そういった疑問は一切、説明されない。だが、掘り進めるたびに見つかるお金や不自然な空洞、明らかに人工物と思われる空間──それらが「この下には、何かある」とプレイヤーに語りかけてくる。
つまりこのゲームの“物語”は、プレイヤー自身が「掘るという行動」から読み取るものだ。
手に入る情報はすべて、演出や地形、配置されたオブジェクトからの“無言のメッセージ”。この構造こそが、他のゲームにはない唯一無二の世界観を形作っている。

ただ掘る、だけじゃない。工夫と選択が生む深み
効率か、探索か。アップグレードと選択のジレンマ
掘るだけと聞くと単調に思えるかもしれないが、実際にはプレイヤーの選択がゲーム体験を大きく左右する。
シャベルの強化、バッテリーの容量、アイテムスロットの増加など、限られた資金をどこに使うかで戦略が変わる。
特にバッテリーは重要な要素。掘るたびにエネルギーを消費し、尽きればその場で倒れて資材を失い、地上へリスポーン。
そのため、どれだけ深く潜るか、どこまで粘るか──プレイヤーは常に「引くか、攻めるか」の判断を迫られる。
この判断の積み重ねこそが、本作の隠れたゲーム性だ。


自由と工夫が生む“自分だけの掘り方”
本作には、正解となる掘り方は用意されていない。
斜めにジグザグ掘ることで戻れる足場を確保したり、ライトをケチって暗い中を突き進んだり、逆に序盤からライト全開で突っ切るスタイルもあり。
どこを掘るか、どのルートで戻るか、どこに資源があるか。
すべての判断がプレイヤーに委ねられており、だからこそ「自分なりの掘り方」が自然と生まれる。
掘るだけ──それは、最も自由な行為かもしれない。

掘り続けることで見えてくる“自分”
明確な報酬は少なめ、それが逆に心地いい
本作には、やり込み要素としていわゆる「条件達成によるトロフィー」のようなシステムが存在している。すべてを収集することを目指せば、ちょっとした達成感もあるだろう。
また、作業小屋には初期状態では開かない鍵付きの宝箱が存在し、条件を満たすことで開けることができる。この小さな謎解きがプレイヤーの探究心を刺激してくれる。
とはいえ、派手な演出やリワードが用意されているわけではない。どちらかというと、「ただ掘る」「もっと効率よく掘る」「より深く掘る」といった自分の行動を洗練させていく過程そのものがやり込みの正体だ。


掘ることの繰り返しが、静かな中毒になる
何度掘っても、風景はあまり変わらない。
BGMは流れず、聞こえるのは土を削る音と、自分の足音だけ。
しかし、その静寂の中で「もっと深く」「あの空洞に行ってみよう」「資源を無駄にしない掘り方をしたい」と、自分の中の“もっと”が育っていく。
このゲームにおけるやり込みは、数字や実績ではなく、プレイヤー自身の試行錯誤と向き合い続けることにある。
そこに楽しさを見出せる人にとって、このゲームは一生モノの掘削場となる。

感想まとめ:ただ掘る。それだけなのに、なぜか忘れられない。
『A Game About Digging A Hole』は、非常に特殊なゲームだ。
BGMも演出もない。語られる物語も、明確な目標もない。あるのは、掘るという行為だけ。だがその「掘る」ことに、これほど集中させられ、癒され、没入させられるとは思わなかった。
アップグレードの選択、資源の回収ルート、ライトの設置場所。
気づけば自分なりの“掘り方”を模索していて、次第にそれが洗練されていく感覚がある。
エンディングを見たあとも、「もう一度掘りたい」と思えるのは、それだけこのゲームが“掘ること”に純度を極振りしている証だろう。
正直、万人におすすめできるゲームではない。
だが、“何もないこと”の豊かさに惹かれる人なら、この作品は心に残る一本になるはずだ。
まさに“デジタルな禅”。
静寂を愛する人にこそ刺さる、掘削系ミニマルゲームの傑作だ。